「日本酒が好きです」の一言で次の杜氏候補へ
●三原
面接のときにまず「タバコは吸いますか?」と聞かれ、吸いませんと答えたんです。
そしたら次に「お酒は飲みますか?」と。
質問の流れを考えると「飲まない」って答えたほうがいいのではと・・・(笑)
でも、嘘をついても仕方がないなと思い「日本酒が大好きです」と答えると、「今ちょうど酒造りの次の世代を探しているのですがどうですか」と言ってもらいました。
転職活動中、ハローワークで地元にある他社の醸造所の求人を見かけたことがありました。
その求人はすでに募集を終了していましたが、そのときに「お酒に携われる仕事もあるのか」と少し意識はしていたんです。
あわよくばと思っていた矢先、こんな流れで酒造りに関われるとは・・・と驚きました。
―― 三原さんは前職で老人ホームに6年ほど勤務していました。
そこからなぜものづくりという別の分野にチャレンジしたのでしょうか。
●三原
もともと、三十歳までに違うことをやろうと考えていました。
そこでまず三十歳手前で、将来実家の米作りを継ぐことを決意したんですね。
僕の出身地は、飯尾醸造本社がある栗田(くんだ)です。
実家の米作りを継ぐということは、これからは栗田で生きていくって決めたようなもんです。
なので、地元でしか出来ないことを仕事にしたいと考えていました。
そんな時に飯尾醸造の求人を見て、「地元の水と米」から酒と酢を造っていることを知り「まさにこれや」と思い応募しました。
―― 未経験で職人仕事に携わることや、職人集団のなかで働くことへの不安はなかったのでしょうか。
●三原
入社前はたしかに、蔵人たちの写真をホームページで見て「このいかつい人たちのなかに入ってやっていけるんか・・・」とは思いました(笑)
でも実際は、わからないことも丁寧に教えてくれる人たちばかりでした。
日本酒や発酵について学ぶのが好きですし、聞くと蔵人たちも教えてくれます。
学ぶ気持ちがあれば、全く知識がなくても酒造りに関われます。
私自身もまだまだ学ぶことばかりなので、むしろ一緒に勉強していきたいですね。
伝統的な酒造りを残すために変えることと、変えないこと
―― 飯尾醸造に限らず、酒造りの時期は酒蔵に泊まり込みで発酵を見守るのが一般的です。
しかし前杜氏の藤本が「この環境を次世代に引き継ぐわけにはいかん」と考え社長に相談。
設備投資を行い、「物を動かす」など機械で出来ることは機械化し、蔵人の負担を減らしました。
その結果、泊まり込みでの作業がなくなり、蔵人が毎日家に帰れるようになりました。
●三原
入社前に「肉体労働を長く続けられるかな・・・」という不安がありました。
当時は、酒蔵の仕込み期間中は泊まり込みで勤務するのが普通で、朝五時に起きるのも当たり前。
泊まり込みでずっと職場にいるとどうしても気を張り続けていました。
でも、二年目の途中から泊まり込み勤務がなくなり、精神的に楽になりました。
蒸した米を移動する工程。昔はスコップで米を移していましたが、機械の導入により一度に移動できるようになりました。
―― 一方で、日本の伝統的な酒造りや調味料作りにおいて大事な工程は、いまでも機械を使わずに手作業で行います。
そのうちのひとつが「米麹(こめこうじ)」作りです。
米麹とは、簡単に言うとアルコール発酵に必要な糖をでんぷんから作るためのもの。
米麹がなければ、日本酒造りが始まりません。
蒸した米に手で麹菌(こうじきん)を振り付けます。麹菌が付いた米は、温度管理をする麹室へ。
麹室では、お米に付いた麹菌がうまく増殖するように温度を管理します。
―― 麹を手作業でつくっているのは、日本の全調味料生産量のうち0.1%以下と考えられています。
米麹作りには日本酒の原料とは別のお米を蒸す、麹を付ける、温度が下がらないように保温する、温度管理をしながら様子を見る・・・など様々な工程が必要です。
社外から買い付けたほうがもちろん手間は省けます。
それでも手で作り続けるのは、飯尾醸造が日本の伝統的な酒造りの技術を守ること、そして職人のやりがいを大切にしているためです。
蔵人が働きやすいよう環境を変えながら、伝統的な作り方は変えない。
そうすることで、伝統的な酒造りや酢造りを、次世代に受け継いでいこうとしています。
「この方たちのために酒を造っているんだ」という思いが、働くモチベーションに
―― 現在酒蔵では、お酒の仕込みをする11月頃から4月頃までは、土日を含め交代で勤務をしています。
●三原
お酒の発酵は止められません。
「酵母」という生き物が働いてくれているのと、お酢よりもお酒は毎日の変化がとても大きいため、仕込みの真っ最中は誰かが見てあげる必要があります。
ある程度の量をスケジュール通りに仕込むために、土日を含めて交代で働いています。
―― 三原さんは休日に日本酒をたしなむものの、お酒の仕込み期間中は家でも気が張ってしまい「お酒を飲んでもあまり酔えない」のだとか。
日々神経を使いますが、それでもやはり酒造りは楽しいそうです。
●三原
お酒が元気に発酵しているときって、目に見えて「ぐわんぐわん」と対流が起こるんです。
その様子を眺めているだけでも楽しいんですよね。
お酒が「いい感じにできたなぁ」と思ったときもそう。
良い発酵をしていると、やっぱり良い香りがします。
あとは、狙い通りの仕込みができたときは嬉しいですね。
お酒を仕込むときって温度が結構重要なんです。
仕込みの際、タンクに投入する蒸し米の温度を何度にするかを決めて、その温度まで冷ましたお米を入れます。
毎日、気温も原料の「もろみ」の温度も微妙に違うので、完璧に思い通りの環境にはなりません。
ほんまに狙い通りの仕込みができた時は「この温度完璧。やったったぞ。」って思います。
ある意味、ゲーム感覚に近いかもしれません。
―― 一方で入社当時の仕事に対する向き合い方は、いまとは少し違っていたのだとか。
●三原
入社一年目のとき、仕事を頑張ってはいましたし、酒造りも楽しかったんです。
一方で「何のために仕事をしているんだろう」と仕事の目的がわからなくなることもありました。
もちろんいいお酒を造るため、そして自分の生活のためではあるのですが・・・「とりあえず生きていけたらいいや」とどこか漠然と働いていたように思います。
そんなときに「田植え体験会」の夜の交流会で、お客様と直接お話ししたんですね。
わざわざ体験会にお越しくださるような方々なので、会社のこともとても応援してくださる。
本当にすごくいいお客様ばかりで、そんな方々とお話ししているときに「あ、自分はこの方たちのために仕事をするんだ」と思ったんですね。
そこで働くモチベーションがガッと上がりました。
それ以来、イベントに来られるお客様に限らず、富士酢ファンの方に「やっぱり富士酢を使っていて良かった」と思っていただけるような仕事をしたいと考えるようになりました。
―― 田植え・稲刈り体験会は、その名の通りお客様に米づくりを体験いただくイベントです。
毎年5月と9月に開催し、夜はお客様との交流会を行います。
蔵人にとって、交流会はお客様から直接、富士酢や飯尾醸造へのご意見やご感想を伺える貴重な機会でもあります。
直接伺ったお声を励みに、変わらぬ品質で富士酢をお届けできるよう、蔵人は日々仕事に取り組んでいます。
毎年5月に実施する田植え体験会には、普段から富士酢を使ってくださっているお客様が全国から集まってくださいます。
―― 酒造りがいち段落する4月以降。
三原さんは、酒蔵で富士酢の原料となる日本酒造りだけでなく、新たなお酒造りにも挑戦しています。
●三原
いま、清酒の製造免許を新規で取得するのが難しいことから、清酒ではない「その他醸造酒」や「クラフト酒(さけ)」と呼ばれる酒の製造が流行っています。
飯尾醸造は「その他醸造酒」の免許を持っています。
実際に、飲むための日本酒として造っていた「富士酒(ふじしゅ)」は自社直営のレストランでも提供してきました。
以前から「その他醸造酒」も造ってみたいと思っていたところ、社長が「どんどんやってみていいよ」と言ってくれたんです。
それ以降、酒造りがお休みの期間は、醸造酒の仕込みを試しています。
普段と仕込みの量も気温も違うのでなかなかうまくいきませんが・・・。
―― 実はクラフト酒造り以外にも試したいことがあるそうですが、そのお話はまたの機会に。
これから三原さんがどんな挑戦をするのか楽しみです。
酒造りで大事なことは「安全面・衛生面」と「傾聴」
―― いま飯尾醸造では、製造部と販売部ともに、ベテラン世代から若手世代へ代替わりが進んでいます。
酒造りについても、昨年の12月から三原さんが新杜氏として指揮を取っています。
今後入社される方に、酒造りに関わっていただく場合、どんなことが大切か聞いてみました。
●三原
チームで酒造りを進めるうえで大事なことは2つ。「安全面と衛生面を大事にできること」と「人の話を聞けること」です。
現場には、使い方によってケガに繋がりうる設備もあります。
また、万が一お酒が雑菌汚染で使い物にならなくなると、全部捨てなければならず会社に大きな損害が出てしまいます。
美味しいお酒を造るためには、まずは安全面と衛生面に最大限、気を付けなければいけません。
●三原
また、酒蔵ではチームで動くので蔵人どうしのコミュニケーションが不可欠です。
その際、「話す」ことも大事ですが、人の話を「聞く」ことも大事だと思っています。
周りの話を聞けていないと「他の人がこの作業をしている間にこの準備をしておこう」といった作業の先読みができず、仕事が止まってしまうからです。
前職の老人ホームで学んだ「傾聴」の姿勢は、飯尾醸造に入社してからも役立っていると感じています。
―― 「人の話を聞けること」については、飯尾醸造の酒造りを学ぶうえでも大事だと言います。
●三原
未経験で入社して、いまから仕事を覚えるためには、周りの話を「聞いて」酒造りの知識や仕事のやり方を覚える必要がありますよね。
経験者の方であっても、蔵(会社)によって酒造りの作業の進め方は異なるため、まずは飯尾醸造のやり方を聞いて理解していただけると嬉しいです。
もちろんその上で、以前の経験から「ここはもっと効率よくやれそう」「負担を減らせそう」など教えていただけたらすごくありがたいです。
―― 最後に、今後5年、10年で進めたいことを聞いてみました。
●三原
やっぱり労働環境は、より向上していきたいです。
泊まり勤務がなくなってかなり負担が減りました。
そのうえで、残業時間をより安定させたいです。
酒の仕込み期間は、麹の発酵の進み具合によってかなり早く仕事が終わったり、逆に遅くなって残業が発生したりします。
突発的な残業は仕方ないのですが、将来は基本的に残業なしにできればすごくいいなと思っています。
ある程度限界はあると思いますし、現時点ではまだ案がありませんが、まずは酒蔵の人員を増やして蔵人の休みを確保したいですね。
次世代を担う蔵人を募集しています
現在、飯尾醸造では酒造りを担ってくださる次世代の人財を募集しています。
酒造りのメンバーとして入社いただくと、三原さんおよび他の蔵人と一緒に酒造りを担っていただきます。
現在弊社で働く蔵人には、ものづくりや食品の製造について未経験で入社したメンバーがたくさんいます。
家族や友人に胸を張っておすすめできる製品づくりに関わりたい。
目の前の仕事にしっかり取り組みたい。
そんな方は、弊社の考え方と合っているかもしれません。
ぜひ以下の「採用情報」ページ内にあるメールアドレス宛に、お気軽にご連絡ください。
まずは富士酢について詳しく知りたい方は、まず蔵見学にご参加いただくのもおすすめです。
蔵見学の詳細は、以下のページからご覧ください。
(記事公開日:2026年03月26日)